疑惑の声弾

                                                                                                           2017/06/20





この話はれっきとした事実である。

もう二十年以上前の出来事だが、あるアニメーターの兄が大金を持ったまま失踪した。
その当時、ある下請けのアニメ会社を辞めた人間達の所に、ひんぱんにイタズラ電話が集中した時期があった。

そしてその会社を辞めたアニメーターの奥さんの元に、度々不思議な電話がかかってきた。
声の変換器を使っているのだろうか、まるでヘリウムガスを吸って話してるかのような声だったという。

その電話の声の主は、辞めたアニメ会社の元同僚だと名乗った。その元同僚の男もすでにそのアニメ会社を辞めていた。
だが、2人は犬猿の仲で、電話がかかってくる理由は有り得ないのだ。
そういった事情を全く知らない奥さんは、電話の声の主を元同僚の男だと信じてしまった。
それは夫の個人情報も詳しく知っていたのがその理由だった。

結論から先に言おう。元同僚を名乗る電話の主は、全くの別人で、犬猿の仲の二人をさらにこじらす為に、お互いの家にイタズラ電話をしていたのだ。
そのイタズラ電話は、実家の親族にまで及び、あるアニメーターの兄は弟の同僚を名乗る偽の人物に呼び出されて、会った直後に失踪している。

驚く事に何があったか不明だが、多額の借金までして、大金を持ったまま未だ行方が知れないのだ…
そしてそのアニメーターの実家は、人手に渡って消滅してしまった…

俺はその電話の犯人の心当たりはある。
だが状況証拠だけで、決定的な証拠は全く無い。
俺はその犯人とおぼしき人間に、その「事実だけ」はしっかりと伝えた。冷静さを装っていたが、顔面は蒼白だった。

現在なら監視カメラや様々な電子機種で、解決の糸口は掴めるのだろうが、二十年以上前の出来事が残念でならない…

その声の変換器を使った電話は、今でも時々、赤村プロの甘崎にはあるとのこと。「地獄の閻魔」を名乗って…
万が一にもその恐ろしい犯人が捕まったとしても、果たして罪に問えるかどうか疑問も残る…

ただ多くの人間が未だそのトラウマに苦しみ続けている…

疑惑の声弾・完