哀しい実話

                                                                                                           2020/02/17





ご無沙汰していた知り合いの角園(仮名)から連絡があった。何やら俺に相談があると言う。
そして話の内容が内容だけに直接話したい。また人が居る喫茶店や飲食店は避けたいと言う。何事かと思いながらも了解して数日後、とある公園で待ち合わせた。

久々の再会なのに、挨拶もそこそこに、角園が話し始めた。

角園「ところで柳田さんは、ベテランのアニメーターで、怨田さん(仮名)って知ってますか?」

俺「怨田…???…いや、知らないなぁ…」

角園「えっ! でも柳田さんは赤村プロに詳しいでしょ?、怨田さんも赤村プロに居たか、何らかの関係があったみたいなんです…」

俺「俺は、あの会社のことを何でも知ってるわけじゃないよ。それに、その名前は初耳だなぁ、俺が居た頃はそんな名前の人間は居なかったよ。ところで、その人いくつぐらい?…」

角園「正確な年齢まではわかりませんが、たぶん五十代の男性です。」

俺「う~ん、全く心当たりが無いし、その人がもし赤村プロに居たとしたら、あのリンチ事件の後だな。俺が一度あそこを辞めた後に入った人だと思うよ。」

角園「そうですか…実は怨田さんは会社の先輩でしたが、先月に病気で亡くなりました。そして亡くなってから初めて怨田さんが、赤村プロと関係があったとわかったんです…」

俺「亡くなってから?!…」

角園「はい、怨田さんは少し変わった人でした。無口で自分のことは、あまり話しませんでした。ですから怨田さんが、赤村プロと何か関係があったことも、全く知りませんでした。」

俺「ところで、なんでその人が、赤村プロと関係があったとわかったんだ?…」

角園「はい、実は怨田さんの遺品整理で、鉛筆とか、文具類を私が貰ったんです…」と顔をしかめた。

俺「なんだ?、真剣な顔しちゃって。」

角園「実はそのことなんです。まだ誰にも話してないんですけど、その遺品の中のひとつに…」急に顔がこわばった。

俺「どうした?」

角園「これ見てください…」

そう言いながら、俺に小さな巾着袋を突き出した。

角園「中を見てください…」

中を確認して驚いた!!!
巾着袋の中には、数十枚の一円玉が入っている。ところが、一円玉全部に赤色の塗料だろうか、「呪」の文字が書いてある。そして、その裏側には「あの男」の名前が、赤文字で書いてある。

俺「なんだ、こりゃあ~!」

角園「私にもわかりません…ユニの鉛筆ケースの下段に入ってたんです…これが2ケース分です。」

俺「う~ん…気持ちのいいもんじゃないよな…」

角園「そうなんですけど、裏にある名前は、赤村プロの社長ですよね?…」

俺「確かにそうだ。」…細かく名字と名前まで書いてある…

俺「同姓同名の人間とは思えないし、これは執念だな。」

角園「だから関連があったと思ったんです。しかもこの社長の異常さは有名ですし、きっと何かあったんだと…」

俺「たぶんな…」

角園「そして、この一円玉にどういう意味合いがあるのか、いろいろ考えてみたんです…すると少し思い当たることが…」

俺「なんだ?…」

角園「これはあくまでも、勝手な想像なんですけど、怨田さんは神社仏閣巡りが趣味でした…」角園がそう言った瞬間ピンときた!

角園「怨田さんの過去に何があったか、わかりませんけど、状況的にみて願掛けのお賽銭だと…」

俺「だろうな…」

やる事は違っても、そんな連中は山ほど居る。実際にワラ人形を作って実行したヤツもいる…そこまで行動する人間は、だいたいが家族まで被害を受けている…
おそらくこれが怨田さんという人のライフワークだったんだろう…

角園「柳田さんなら、何かもっと詳しい事情でも知ってるかと思って…」

俺「いや、全然知らないな…」

角園「こんな話、怨田さんの名誉のために、会社の人間にも相談できませんし、困ってたんです…」

俺「そうだよな。」

角園「ところで、柳田さん、コレどうしたらいいんでしょう?…」と、一円玉を気にしてる。

俺「事情をメモして、あの男に送ってやったらどうだ?」

角園「まっ、まさか!」

俺「本人だったら、何をしたか、わかってるだろうしな。」

角園「じょっ、冗談でしょ?…でも、こういった物はどうしたらいいんでしょう…」

俺「その怨田さんの思いを尊重するなら、捨てるわけにもいかないよなあ…」

角園「じゃあ、どうしたら?…」

そうか、角園が電話じゃ相談できないと言ったのは、このことだったんだと察した。

俺「手にあまるなら、俺が処分してやるよ。」

角園「ホントですか!」角園はその言葉に少し安心したようだった。

俺「そのかわり、この話、アニメボムに書くぞ。」

角園「わかりました。でも仮名にしてください。私まであの会社から、目を付けられたら、たまりませんから…」

しばらく雑談したあと、角園は帰って行ったが、その巾着袋は、まだ俺の手元にある…さてどうしたものやら…

怨田さんのように、未だあの男に怨みを持つ人間は多い…
俺は怨田さんを知らないし、何があったのかもわからない…ただここまでするという事は、この人がどれだけ苦しんだのかは想像できる。
罪深いモンスターは、未だ被害者の心の中に潜んでる。やるせないなぁ…久々に憂鬱な気分になった…

見ず知らずの怨田さん、あなたの思いはわかる。安らかに眠ってください…
きっとその思いは…

♪通りゃんせ通りゃんせ、ここはどこの細道じゃ、天神様の細道じゃ、ちいっと通してくだしゃんせ、御用の無い者通しゃせぬ、私の涙のお返しに、怨みを納めに参ります、行きはよいよい帰りは怖い、怖いながらも通りゃんせ通りゃんせ~♪

…だったんだろうなぁ…合掌…