必読!あの事件の真実

                                                                                                           2019/02/04





過去に日本中を震撼させた、アニメ界の「女子社員・監禁集団リンチ事件」を振り返ってみる事にする。

それはこれからもアニメーターを志望する若者もいるだろうし、そのアニメ会社は現在も存続する。
あの事件後、何も変わらず犯罪が巧妙化しただけだ。
平成が終わろうとしている現在も、手下を使って暗躍している。

そして何故ごく普通の若者達が、凶悪な犯行に及んだのか考えてみたい。
そして、あの事件がどのような「いきさつ」で発展して、何が「きっかけ」で発生したのかも重要な部分だ。

若者達が二度とこういった事件に巻き込まれないように、少しでも警鐘を鳴らしたい。

筆者はその事件に深く関わり、事件の事後処理に当たった。
その事件に至るまでの様子を一番知る身だと自負している。
そういった意味でも今一度、真実を語る責任がある。

本文の「大事件勃発」では、省略したり隠蔽した部分もある。加害者は実際にはほとんど成人だった。
また新聞や週刊誌などマスコミの報道では、閉ざされた空間での若者のストレスによる突発的な事件と報道されたが、実際には計画された犯行だった。
取り調べた警察も知らない事実も含めて検証して、注意喚起をしたい。

そして被害女性と、加害者のリーダーである社長の間には、過去に強固な信頼関係があったことからも語らなければならない。
この事実は、犯行に及んだ若者達も知らないはずだ。
まずは、その当時から振り返ってみる必要がある。

尚、文中に登場する人物は、筆者以外は全て仮名である。


【序章】

事件の被害者は、当時二十代の村山恵子さん。

熊本から上京した彼女は、赤村プロに入る前までは、他のアニメ会社でセルに色を塗る、仕上げの会社で働いていた。
年齢は俺より少し上で、赤村プロの入社は俺と同期だった。そして俺と同じアパートに住んでいた。
当初は同期で同じアパートの住人ということもあって、彼女とは何の問題もなかった。
貧乏で空腹の俺にチャーハンを作って差し入れてくれたこともあった。

当時の会社は西武池袋線の、桜台駅近くにあった。

彼女は小柄な体だったが、性格はかなり我が強かった。その性格は良くも悪くも物事をはっきり言うタイプだった。
そして会社に慣れてくると、徐々にその性格がわかってきた。
そしてそんな性格から、彼女は先輩達と軋轢を生んでいった。

彼女は入った当初から、「社長だけ」には従順だったので受けも良く、社長から信頼されるようになるには、さほど時間もかからなかった。

彼女は会社で気になる事があれば、遠慮なく社長に進言するようになる。

例えば、先輩女性達の掃除の仕方が悪ければ、「ここの女達はまともに掃除も出来ない」と、わざわざ社長に告げる。すると社長は翌日先輩女性陣を集めて一方的に叱った。

それまで会社内では、Oさんというリーダーでまとまっていたが、そういった数々の仕事以外の軋轢と、「えこひいき」が重って、次々に先輩の女性達は会社を辞めて行った。 村山女史に対する不満もあったが、むしろ社長に対する不信感の方が強かった。

それでも社長は、村山女史を信頼して、社内で村山女史の意見がを大いに取り入れられるようになっていった。

村山「社長、これからは作画だけでは駄目ですよ。色を塗る仕上げ班も作って、会社を大きくしましょう。」
そんな彼女の提案を社長は易々と受け入れてしまった。しかし仕上げの経験者は彼女だけ…他は誰も経験した事が無い…誰がやるんだろ?…と思っていた。

数日が経過して、会社の数人の動画マンが集めらた。その中に俺も入っていた。
社長「これから君らは、朝10時から7時までは動画の仕事をして、7時からは仕上げの仕事をしてもらう。後の事は村山君の指示に従うように。」

社長には何の計画性も無く、頼りは村山女史の経験のみという状態で、仕上げ班がスタートしてしまった。
素人の寄せ集めの為、作業もなかなか進まず、無謀な二足のワラジに嫌気が差して、数人の先輩が会社を去って行った。
そして会社の女性は、村山女史一人となってしまった。
そして呆気なく、赤村プロの仕上げ班は頓挫した。最後の仕事は、東映のグレートマジンガーの第2話だった。

それでも社長は、アニメーターとして、村山女史の腕を評価していたし、右腕として使っていた。確かに彼女は女性キャラが得意で、色っぽい女性を描く才能があったのも事実だった。
社長は何かと言うと「村山君、村山君」と持ち上げてたので、社長の弟である悪羅氏も、決して快くは思ってはいなかった。
それでも兄の手前、決してそれを口にする事はなかった。

そんな社長の信頼が厚い村山女史は、先輩方の人間像まで分析して社長に伝えた。
すると、社長はそれを信じて本人に注意をする。
あまりにも自分勝手な言い分に、一度村山女史に反論したら、「ナメんじゃないよ! アタイはねえ、そんじょそこらの女じゃないんだよ!」と、凄まれた事があった。
もし彼女が男だったら喧嘩もできたが、相手は女だし、そこはぐっとこらえた。

一番の問題は、そういった村山女子の横暴を社長が許していた事だった。
周りの人間には絶望感しかなく、多くの人間が会社を辞めて行った。
それでもこの時期は事件などは起こらなかった。ただこれらの出来事も、社長の頭の中には「負の記憶」としてインプットされていた。


【事件の鍵】

事件の火種がくすぶり始めたのは、会社が引っ越した後だった。会社の顔ぶれが殆ど替わり、会社が桜台にあったことを知る人物は、社長と弟の悪羅氏と俺、そして村山女子の四人だけだった。
当時会社は三階建ての仕事場を建設中で、近くのマンションを借りて仕事場としていた。
当時の俺は、東京近郊の街で彼女と同棲中で、赤村プロの外注だった。会社に来るのは週に一度ぐらいだった。

この時期にあの事件の鍵を握る一人の女性が赤村プロに入って来る。
金剛好子という二十代の女性である。
彼女はアニメ経験者であり、それまでは他のアニメ会社で働いていた。
どういった経過で、赤村プロに流れて来たかはわからないが、彼女もまた村山女史と同じような小柄で、性格も似たようなタイプだった。

それが原因なのか、我が強いこの二人が、後に反目し合って、争いの火種となっていく。
後から入社した金剛女史は、もともと赤村社長のファンで、入社してからは完全な社長の太鼓持ちとなっていく。
そんな状況が心地よかったのか、社長は、徐々に金剛女史に目をかけていった。

ここでもう一人、忘れてならないのが、この事件に深く関わった小森君という少年がいる。
彼は中学を卒業したと同時に赤村プロに入ってきた。
彼もまた赤村社長の大ファンで、ファンと言うよりも熱狂的な信者だった。
社長にすれば嬉しくないはずもなく、そんな小森少年をまるで弟か息子のように可愛がった。
ただ彼の性格はとてもナイーブで、その心の繊細さは怖いぐらいだった。

社長に気に入られたこの小森少年は、後に社長のスパイとなっていく。本人にそういった意識は無かったのかも知れないが、社長を崇拝するあまり、結果的にはスパイの役割を充分果たしていく。
彼が近くに居ると、社内での愚痴や不平は、全て社長の耳に筒抜けだった。それも彼にしか伝えてない話でも社長は知っていた。

事件が動き始めたのは、赤村プロの三階建てのビルが完成して、仕事場を移転した後だった。
村山女子と金剛女史との精神的なバトルが続いてる最中、社長の秘蔵っ子の小森少年が金剛女子の味方に付く。

その理由は、彼が一方的に金剛女史に惚れていたからだ。
一方の金剛女史には全くその気は無く、彼をむしろ子供扱いしていた。
小森少年の淡い恋心が、自然と金剛女史の「対村山」の意識に染まっていく。


【飲み込まれていく若者達】

そんな頃、この後に事件の加害者となる数人の若者達が、赤村プロに入ってくる。彼らは大学時代からの仲間同士だった。
それまでのいきさつを全く知らない彼らは、いつしか年下ではあるが、先輩でもある小森少年と仲良くなっていく。

社長に可愛がられる子飼いの小森少年と、太鼓持ちの金剛女史の存在は、周りに少なからず影響を与えた。
それは社長にとっても同じことだった。
女二人の火花を散らす精神的バトルが続く中、この頃から社長の金剛女史を養護する発言が目立っていく。

そういった空気の中、後から入ってきた人間の心の中には、会社で誰に付いたら得策なのかという思いが自然と芽生えていく…

反村山の急先鋒の金剛女史と、それを擁護する小森少年の思いは、社長の苦い記憶を呼び起こす。 社長にとっては、何事もイエスマンの金剛女史と、盲目に社長を慕う小森少年は、都合のいい存在だった。
社長が黄門様なら、この二人は助さんと格さん。そして悪代官は村山女史という図式が会社の中に出来上がっていく。

そしてこの頃の社長はアニメーターとして台頭してくる村山女史がうっとうしかった。
そういった思いが徐々に敵対心に変わっていった。出る杭は打たれるどころか、社長は出る杭を「悪魔」にした。
現在は画家として活躍しているD氏も、悪魔にされたその一人だ。

話が少し脇道に反れるが、この事件が終わり、社長が出所した後、このD氏が社長から「悪魔」として、壮絶なパワハラを受ける事になる。
度々社長の部屋に呼び出されて、徹夜のミーティング。
ミーティングと言うよりは、悪魔としての怒号の嵐だった…そんな事が続いて、身の危険を感じたD氏は、赤村プロを逃げ出した一人だった。

何故D氏も悪魔になったのか?…

数年前に、俺は画家になったD氏と再会して、当時の話を聞く事ができた。

D氏の話によれば、D氏の何気ない一言が社長の逆鱗に触れたらしい…
D氏「俺はね、当時の社長は業界では名が通った人だったし、キャリアも実績も俺とは雲泥の差だと思ってた。だから仕事に関する事は何でも質問したし、何でも言っていいと思ってたんだ…俺の言う事なんか、どうせ小僧っ子の戯れ言ぐらいに受け止めてくれると思ってた…だからある時、変な意味じゃなくて、社長にはメカ作品は向いてないんじゃないですか? って言ったんだ。そしたら社長が、お前は俺の自信を潰す気かあ~っ!って、激怒して恐ろしいぐらいの剣幕だった。それがきっかけで、俺は悪魔にされたんだよ…」しんみりした表情でD氏は語り始めた。

「俺があそこを辞めた後も、実家には社長からの怒りの電話の山で大変だった。おじいさんにまで、電話でお前の孫は会社を潰そうとした極悪人だって責めたんだ。何も知らないおじいさんはビックリしちゃって、心配して俺に確認しに来るし、それから俺も落ち込んで、ずっと悩み続けたんだ…」

俺には意外な言葉だった。腹が立ったなら理解できるが、D氏の「悩んだ」という言葉が気になった。俺はその言葉の意味をD氏に確認した。

D氏「俺が社長の自信を喪失させちゃって、会社が潰れるとまで思わせたんだとしたら、俺は悪い人間なのかなぁって…」D氏の表情は真剣だった。
D氏が続ける。「だから、ずっとあの会社が気になってた…辞めた後もずっと気になってたんだ…あの会社には頑張って欲しいって…俺の言葉でそうなったなら…赤村さんには絶対に頑張って欲しいって思ってたよ…」その言葉を聞いた俺は、D氏はなんて優しくていい人なんだと思った。

俺「Dさんに責任なんて無いよ。その程度の言葉で人生が変わって、挫ける人間は、所詮その程度の人間だったんだよ。」
俺が力強くそう言うと、D氏は安堵したような表情になったが、当時の記憶が蘇ってきたのか、二度とあの兄弟とは、会いたくないと付け加えた。

D氏が言うように、赤村社長はアニメーター現役当時は、何本かのアニメ作品のキャラクターデザインをしている。当時は斬新な絵のタッチと丁寧な仕事で、それなりに評価は高かった。
D氏にしても決して社長の腕を否定したわけじゃなかった。

だが俺は思う。社長はD氏の実力を認めて嫉妬していた。だからこそ、D氏の言葉に傷付いて激怒した。
そんな自分の自信を消失させたD氏が、社長にとっての悪魔になったのだ。
躍進してくるアニメーターによって、赤村社長のプライドは追い詰められていた。
社長の「悪魔」の始まりは、村山女史から始まった。

後に現場を離れて引退した社長は、どういう意味なのか、現役の作画監督時代は、地獄のような苦しみの毎日だったと語っている。

話を前に戻そう。
村山女史をうとましく思う社長と、村山女史と対立する金剛女史。
そして金剛女史に思いを寄せながら、社長のスパイ活動を続ける小森少年。
この三人の意志疎通が合致して、事が動き始めていく。

その後、社長の村山女史に対する扱いは、村山女子を遠ざけ、精神的に追い詰めていく。

過去にさかのぼって、会社を辞めて行った人間は、全て村山女史のせいだと責任転嫁し始めた。
周りの人間に対しても、村山女史のことを「邪悪」、「鬼畜」、「悪魔」、「狐憑き」などと言葉の激しさが増していった。

それと同時に村山女史に対する中傷が、会社内で噂されるようになる。
この頃の金剛女史の発言で、「私はAプロのHさんと友達だから、そのうち赤村プロに引っ張ってみせる。」と社長に豪語していた。
ちなみにAさんとは、当時業界でも有名な、女性キャラが得意な女性アニメーターだった。

これも村山女史に対する当てつけだったのか、とにかく金剛女子は村山女史が大嫌いだった。
この金剛女史のプライドは、いつも他人の力を借りた自慢ばかりだった。
今度は社長の力も、自分のプライドに加えるつもりなのか?… 俺はそう感じていた。

社内で険悪な空気が渦巻く中、村山女史は孤立していった。
たまに俺が会社に顔を出すと、何人かの後輩達の口から、村山女史の愚痴が飛び出すようになる。

この頃に俺は社長から、ある相談を受けている。
社長「あの女には邪悪な悪霊が憑いてるんだ。狐とか得体の知れない何かがね…柳田君の実家は神社なんだから、御祓いを頼めないか?」…こんな相談が二度あったが、目的と意図が全くわからなかった。
社長が言う「狐憑き」を本人が素直に認めて受け入れるはずもなく、もし村山女史に問題があれば、辞めてもらえば済むことだった。

村山女史は確かに気は強かったが、それまで社長に対して口答えをしたり、反抗したりする事は一切無かった。
そして社内に漂う中傷にも、言い訳することもなく、完全に無視していた。

俺も村山女史のことは、あまり好きじゃなかったが、ただ単にそれだけのことで、それ以上の感情は無かった。
社長の弟の悪羅氏も最初は、俺と同じような嫌悪感だけだったろう。
ただ彼は兄の社長には、一切逆らえなかった。例えそれが自分の意志に反する事でも従っていた。
そういった関係から、社長の鬱屈した異様な思惑に染まっていく。

そして悪羅氏は、この事件の後から、徐々に精神が不安定になり、兄の社長と同じ性格に変貌していく。

俺が社長から相談を受けたこの時期は、よもやあんな凄惨な事件を起こすとは思ってもみなかった。
だがこの時点で、すでに社長を筆頭に七人の村山包囲網が出来上がっていたのだ。
社長、悪羅、金剛、小森、そして大卒組みの仲間、河添、中田、川田の合計七人だ。
この七人の結束力は固く、社長が結婚式の仲人をした男もいた。

そして社長が中心になって、連日連夜「村山憎し」のミーティングを重ねていくのである。


【仲間割れ】

こうした不穏な時期に村山女子が退社していれば、事件は起こらなかったと思うのだが、きっと彼女には彼女なりのプライドがあったのだろう…
それともうひとつ、彼女には社内に付き合っていた江本君という男がいた。
だが、その彼の大学時代の仲間の3人は、すでに反村山の中枢にいた。

江本君にとって、かっての仲間が自分の彼女の敵だという事実に、複雑な思いで苦悩していただろう。
そうした状況が、退社願いを遅らせた原因なのかも知れない。

だが、この事件で一番踊らされたのは、河添、中田、川田の三人だ。
それまでのいきさつも知らず、かつての仲間を裏切ってまで犯行に加わっていくのだ。
村山女史から、彼らは本当に実害を受けたのだろうか?

事件前に彼らが俺に言っていた村山女史の批判も、事件の動機としてはかなり弱い。
村山女史から仕事で、間違った事を教えられたとか、小森少年からこう聞いたと、また生理的に嫌いだという、あまりにも事に足らない中傷ばかりだった。彼らにはもともと事件を起こす理由なんて無かったのだ。

では、彼らは社長が言うように、村山女史が「狐憑き」だと、本当に信じていたのだろうか?…実際にそこまではわからないが、それに近い邪悪な人間だと、信じた事には間違いないだろう。

このような状況にしたのは、社長に全責任がある。その間いくらでも騒動を止めるチャンスはあったはずだ。
というよりも、社長は止めたくなかったのだ。社長の歪んだ精神は、相手に徹底的なダメージを与えない限り収まる事はない。
それだけが唯一の鎮静剤なのだ。それをまだ誰も気がついていなかった…

では何故ごく普通の若者達が、そこまでの思いに駆られていったのか?…


【洗脳の恐怖】

彼らの行動は、一言で言うなら社長の誘導と「洗脳」だっただろう。
彼らがどのような洗脳のされ方をしたのか、見たわけじゃないから語れないが、大体は想像がつく。
実はこの俺も、まだ会社が桜台にあった時代、社長の命令で罪を犯した一人だ。
社長とトラブルのあった、見ず知らずの人間を呼び出して暴行をした…

そんな俺の経験で言えば、最初の頃は相手に対してとても優しい。とにかく非常に面倒見がいいのだ。
貧乏で食えない新人には飯は奢るし、金銭的援助も惜しまない。
そういった恩を徹底的に売りまくり、相手に自分を信用させる。

そして言葉も巧みだ。「俺が一番信用してる人間は君なんだ。」と、相手の心を引き寄せる。
そういった甘い言葉で、快くミーティングに参加させる。その当人は社長に選ばれた特別な人間なんだ、と錯覚してしまう。
そうして連日連夜の徹夜のミーティングで、睡眠不足にして、正常な思考回路を止めていく。
2、3日の徹夜なんか当たり前。驚くことに、その間社長は睡眠も取らずに、ずっと熱弁を奮ってるのだ。もちろん部屋からは一歩も出られない。食事は社長が負担する出前のみ。

そんな閉ざされた空間の中で、思考回路が止まった状態で社長が言う。
「君はまだ知らないだろうが、俺は今まで陰で君を守ってきたんだ。今は訳があって詳しい事情は言えないが、今回は会社の危機的状況なんだ。俺は君を最後まで守ってやれるかが心配なんだ…いや、俺は君の為なら犠牲になってもいい…だから一緒に戦おう。」

世間知らずで純粋な若者は、これで引っかかる。その手法は千差万別だ。「架空の敵」を作り上げて、相手を追い込んでいく…
こうして、加害者達の脳裏には、村山女史が邪悪な敵だという観念が染み込んでいったのだろう。
そして、この事件の後も社長は、数多くの人間をコントロールして、犯罪に手を染めさせていく。その手法は天性のものなのだろう。
そして村山女史が身の危険を察して、退社願いをした時には、すでに遅かった…

実は事件の一週間ぐらい前にその前兆はあった。たまたま俺が会社に行くと、社長と数人の若者が村山女史を取り囲んでいた。
そして社長が激高して、村山女史に椅子を叩きつけようとしたのだ。
椅子が彼女の頭に当たる寸前に、俺が咄嗟に出した手に当たって事なきを得た。
そんな出来事があったので、このままではヤバイという思いはあった。だが事件が起きたのは、そのすぐ後だった。


【決行】

この監禁集団リンチ事件を俺が知ったのは、自宅に届いた新聞の一面記事だった。
この時赤村プロは、東映動画の劇場作品の作画の全てを担当していた。そしてその作業もまだ残っていた。
すぐに東映の杉下さんから連絡が入り、主だったスタッフが逮捕されたので、会社の後始末を頼むという電話だった。

すぐに会社の事後対応に向かって、新人達の面倒を見ながら、いろいろ調べてみると、それは計画的な犯行だった事がすぐにわかった。
一番卑劣だと感じたのは、リンチを決行する前には、罪を軽くする為に、社長は小森少年を熱海の海に行かせて、狂言自殺未遂まで指示していた。
警察に保護されたら、村山女史のイジメによって自殺しようとしたと供述しろと…
あいにく狂言自殺未遂は失敗に終わり、その出来事は警察が把握することもなかった。(詳しくは本文・大事件勃発!を)

では、社長は霊的な悪魔を信じてたかと言うと、それは間違いなく信じていただろう。だが、警察の取り調べに対して、社長を含めて誰も村山女史の霊的な「悪魔憑き」についての供述はしていない。その点だけは口裏合わせをしていたのだろう。

この事件のマスコミ発表では、加害者達の動機は、劇場作品を作画している忙しい最中、退社願いを申し出た被害者の行動が加害者達に怒りを買ったと報道された。閉ざされた空間で作業する若者達の、ストレスが生んだ突発的な出来事として処理された。
だが事実は違う…

現実の世界と妄想世界の狭間で生きてる社長にとって、心の中に潜む歪んだ怒りは、悪魔を造り出さない限り自分自身が保てない。
そして自分の正義も成立しないのだ。

その後の出来事に関しては、本文にも記してあるので省く。

俺が思うには、社長兄弟は別として、加害者側の若者達の常軌を逸した迎合の精神が、この事件を後押しした。
誰だって会社の一番の権力者には気に入られたいと思うはずだ。そういった気持ちを逆手に取られて、何のメリットも無い馬鹿馬鹿しい犯罪に手を染めただけなのだ。

俺に言わせれば、この事件のきっかけは、女同士の「歪んだプライド争い」がきっかけ。
そして、自分を良く見せたいという若者達の心理が、心に闇を持つ社長に洗脳され、社長の思惑通りに行動していった。
俺はそう結論付けている。

この事件の少し前、金剛女史と村山女史との凄まじいビンタ合戦があったらしい…

そんな金剛女史の我の強いプライドと、小森少年という盲目の社長崇拝が、この事件の鍵だった。
この二人にそんな意図が無かったにしろ、事件の「狂言回し」としては充分に役目を果たした。そして、パンドラの箱を開けてしまった…

この事件に巻き込まれた加害者の若者達は、この程度の災難で済んだのだから、まだ幸せな方だ。この事件は社長のプロローグであって、その後も犠牲者は増え、もっと酷い目にあった人間が数多くいるのだから。

この事件を振り返って、ただひとつ言える事は、まともな経営者だったら、事件そのものは起きなかった。

そして赤村プロにとって、この事件が教訓になったかと言えば、逆の意味での教訓になった。
会社の犯罪はますます巧妙化していく。そして社長は自らの手を汚す事は無くなった。
その危険性とその後に起こる闇に埋もれた数々の犯罪は、本文にも記してあるので、じっくり読んで、参考にしてもらいたい。

この事件の唯一の救いは、瀕死の重傷を負った村山女史の命には、問題がなかったことだ。俺と村山女史は昔からお互いに気が合わない同士だったが、ただそれだけだった。
後にお見舞いに行った時は、少し不安だったが、村山女史は快く会ってくれた。

お見舞いに行った時は、事件から何日も経ったていたが、熊本から上京したお母さんが、寝たきりの村山女史を看病していた。
頭に包帯を巻いた彼女の顔は、全体が紫色でパンパンに膨れあがっていた。そして片方の目は腫れで顔に完全に埋まっていた。その姿は、ひと目見ただけで集団リンチの暴行の凄まじさを物語っていた…

これからアニメーターを志望する若者諸君、権力に媚びしたり、嫉妬やつまらないプライドは何の役にも立たない。身を滅ぼすだけ…
アニメーターは自分との戦いだろうけど、無理しないように頑張ろう。

そして赤村プロの被害者達、または現在進行中の被害者がいたら、力になるのでいつでも筆者に連絡を。
あの会社には、未だ社長のいいなりの手下がいて、その危険性があるからこそ、俺はこうして実名で告発している。
それがあの会社の危険な足かせになる事を願って。

もうすぐ元号が代わるが、欲求不満の怒れる伝説のモンスターは、鎮静剤を求め次なるターゲットを模索しながら、現在も毎日都内を徘徊している。