呪われたクレヨンしんちゃん
2025/10/18どこの世界でも、下請けへの無理難題やイジメはあるのだろうが、もちろんアニメ界にも腐るほどある。
噂まで含めたら、話はいつまでたっても終わらない。だから俺自身が実際に経験した話をしよう。
俺の半世紀以上のアニメ経験で、一番下請けプロへの「イジメ」が激しかった会社は「シンエイ動画」だった。
特に「クレヨンしんちゃん」の制作スタッフは最悪だった。
まず、下請けやアニメーターを「人間」だと思ってない。
プロデューサーをはじめ、自分達を「特権階級」だと思って、下請けの扱いは本当に酷かった。まるで時代劇の十手持ちが冤罪で、町民をいじめるような対応だった。
俺が赤村プロに在籍していた頃、大きなトラブルがあった。
これは「続・雑草プロ軍団」(雑草達のクーデター)でも触れているが、作品名には触れていない。はっきり言おう。その作品はシンエイ動画のクレヨンしんちゃんである。そして今回は詳しく述べる。
一番の原因はシンエイ動画が持つ特権階級的な社風と、その社風に染まった動画チェックの男の人間性にあった。
当時雑草プロでは他の仕事と、クレヨンしんちゃんの動画を一本担当していた。
ところが、シンエイ動画の動画チェックは異常だった。
アニメーターならわかるだろうが、原画の指示通りに作業しても、動画チェックの感性で逆シートはダメだと、やり直しだと戻ってくる。また数十人の人間が動く動画の、たった一人の人間の線が1ミリでも途切れていると、リテークだと戻ってくる。口パクの中割りの口が気に入らないと、口パク1枚の直しのためだけで、進行が車で1時間かけて持ってくる。
進行が休みや居ない時には、わざわざ宅配便で送ってくるのだ。それも1ミリの線を足すだけ…配送する伝票の住所を書く方が大変だろうに。
原画の指示通り作業しても、動画チェックの勝手な判断で、やり直しが続いたのだ。そんな嫌がらせかイジメのような繰り返しに、雑草プロの人間がねをあげた。「精神的にテンションが上がらない」と。
半世紀以上アニメ界にいるが、こういった扱いをするのは「シンエイ動画」だけだった。
本来「動画チェック」などという仕事はそんなに偉いもんじゃない。アニメ業界ではほとんどが、原画になれない人間がやっている。
そんな負い目とイライラなのか、下請けに嫌がらせをする人間がたまにいる。学生の運動部のように、レギュラーになれない学生が下級生をイジメる。大した権力じゃないのに、そのかすかな権力だけしか、本人は誇るものが無い…
クレヨンしんちゃんの動画チェックは、まさにそんな人間だった。「いのまたむつみ騒動」と同様に虎の衣を借りた哀れな人間だった。そんな理由から、クレヨンしんちゃんの評判は最悪で、どこの下請け会社もあまりやりたがらなかった。
動画チェックが数秒の作業をすれば、済む事を進行の時間と労力を使って行使する。制作進行の労力や、ガソリン代、また宅配便の金銭を考えても、シンエイにとっても効率的ではないのだ。
こちらも納得できないリテークで、アニメーター達のテンションも下がって困っていた。そんな事情をシンエイの制作進行にやんわりと説明した。「お互いに効率的に気持ち良く仕事しましょう。」と伝えた。シンエイ動画の進行は理解してくれたらしく、必ずプロデューサーに伝えますと納得してくれた。
だが少し不安もあった。このクレヨンしんちゃんのYというプロデューサー、仕事を始める前に赤村プロに来たが、最初から偉そうだった。こちらは両足を揃えて普通に座ってるのに、足を組んで椅子にふんぞり返って業界人きどり。
それでも今回の提案は、シンエイ動画にとっても悪くない話なのだ。シンエイ側も「無駄な労力」と「無駄な金」は使わなくてもいい。今後のためにも、お互いに気持ちよく仕事しましょう。という善意の話だと安心していた。
ところが、それを進行から伝え聞いたプロデューサーが切れた。
下請けふぜいが、特権階級の俺に意見するなと言わんばかりに「リテークはリテークで同じだ!言う通りにやれ!」と俺の部下に電話してきた。
プロデューサーは動画チェックに注意もできない。それどころかシンエイのリテークは「教育」をしてやってるんだとまで言う。こっちはシンエイに教育して欲しいなどと頼んでない。
そもそもアニメ界の下請け制度は、元請けが人数をかかえると給料を払えないから、フリーの人間や下請けに出来高払いで金銭的リスクを避けてできたシステムだ。
そしてプロデューサーの心無い暴言から始まり、あげくの果てにこのプロデューサーと面識のある電話対応中の俺の部下の「韓国人蔑視」まで飛び出した。再びそれをファックスの文書で抗議すると、今度はシンエイが生意気だと、会社をあげて乗り込んできた。
このシンエイのYプロデューサー、最初は自分の発言に気付いたのか焦って、和解しようと、朝早く雑草スタジオに電話してきたらしいが、新人の練習生が電話に出たため、現場の人間とは連絡が取れなかった。
どうやら最初は和解の意思があったようだが、しばらくすると、Yプロデューサーの上司の女から、一転して攻撃的な電話あったらしい。 どうやらこの女、下請けに舐められてたまるかと、いった性格でYプロデューサーの対応を全て擁護した。
シンエイと女上司の後ろ盾に力を得たYプロデューサー、今度は態度を一転させたようだった。全てはこの女上司が騒動を大きくしていった。
シンエイから来たのはクレヨンしんちゃん担当プロデューサーと、そのプロデューサーの女の上司だった。ところが当事者の現場の人間は外され、こっちの対応は赤村社長の弟の悪羅と制作の甘崎が、別のスタジオで対応にあたった。
シンエイのプロデューサーとその女上司は、騒動の当事者を外して、赤村プロの経営陣を威嚇すれば、簡単に事は収まると思っていたに違いない。そして赤村プロの悪羅や甘崎は、全く現場の事情を知らないまま、俺達の話も一切聞かず、シンエイ側の一方的な話を全て鵜呑みにしたのだ。
その話し合いは、シンエイサイドの一方的な圧力と罵倒の連続だったようで、社長の弟の悪羅は、仕事欲しさに土下座までした。また何の事情も知らない制作の甘崎は、その女上司に「あなたは最低で情けない人間ですね。」とまで言われたという。もし俺がその場にいたら、間違いなく女上司も含め、シンエイ動画の人間をぶん殴っていただろう。
コイツらがどれだけ偉いのか知らないが、人間の尊厳を踏みにじれば、どれだけ苦痛を伴うのか、逆に「教育」してやりたかった。
怒り心頭だった俺だったが、ジーベックの羽原信義君の「柳田さん、そういった輩と同じ土俵に上がってはいけません。」の言葉に冷静さを取り戻すことができた。
そもそもは、人を人と思わぬ高飛車な下請けイジメが問題だった訳だが、「シンエイ動画」という名のある会社ですら、こんな幼児の「いじめっ子レベルの頭」しかないのだ。羽原君の言葉通り、相手にしてはいけない頭のレベルだった。
日本が誇るアニメなどと、「もてはやす」声もあるが、アニメーターの実態は、金銭的にも精神的にも「もてあそばれる」ことが多い。
その後、悪羅はしんちゃんスタッフを集め「俺が土下座して謝ったから解決したんだ。」と土下座を自慢する始末…(あ~あ…)
ところが、雑草プロの人間はアニメーターを護れない会社に失望して、シンエイの仕事を拒否した。悪羅の土下座は全く何の意味もなかった。
だが、この騒動はアニメ界ならず、他にも飛び火して、ここではあまり語れない。ヘタすれば「京都アニメ」のような惨劇にもなりかねないような、怒りの渦がひとり歩きしてしまった。
そのトラブルのどまん中にいた俺でさえ、危機感を感じて周りを抑えるのに必死だった。
ある人間が言った。
「法律違反はしませんが、呪うのはいいでしょう?」
不穏な空気に俺が黙っていると、「いいんですねっ!!」と強い口調。「こっちは総力をあげてやりますよ!!」
しばらくして、何が原因かはわからないが、クレヨンしんちゃんの作者が死んでしまった…その直後、呪いの言葉を発した人間から電話があった。「まだ終わらないですよ。量子の力で呪いは続きます。」と意味不明の言葉を最後に消息を絶った。
ただひとつだけ言える事は、多くの人間がシンエイ動画のクレヨンしんちゃんという作品に並々ならぬ敵意を持ってしまった。一部では見れば祟ると言う言葉もある。話を知る韓国人の家庭では、子供にクレヨンしんちゃんは見せないと言う。
それよりも裏を返せば、シンエイ動画の凄さは、あの赤村プロの悪羅を「土下座」させた快挙である。上には上があるのだ。一流企業ではありえない幼稚でバカバカしい騒動が、アニメ界には未だあるのだ。
こちらの「効率的な仕事をししましょう。」という提案を、もし「テレビ朝日」の人間が言っていたら、シンエイはテレビ朝日の人間を生意気だと罵倒したのだろうか?
一番可哀想なのは、シンエイ動画の社員で、上がこんなに馬鹿だと、全員が馬鹿だと思われる。
週刊文春さん、ネタが無くなったら、アニメ界にもぜひ「文春砲!」を。